記:鍼灸師 石原綾 | 八幡山 七宝庵
「最近、夜中に何度も目が覚めてしまう」
「寝ても疲れが取れず、朝から体が重い」
40代を迎えると、これまでになかった睡眠のお悩みを抱える女性が増えてきます。
「年齢のせいかな」と諦めてしまいがちですが、睡眠の問題は決して根性論や気休めのアロマだけで解決するものではありません。
今回は連載の第1回として、「最新の睡眠科学」と「東洋医学」の2つの視点から、私たちの体に備わっている「眠りのメカニズム」を紐解いていきます。
ノーベル賞の前奏曲「ラスカー賞」受賞で話題!睡眠のスイッチ「オレキシン」とは?
2026年、日本の睡眠科学研究の第一人者である筑波大学の柳沢正史教授が、医学界最高峰の賞の一つである「ラスカー賞」を受賞されました。
柳沢教授の最大の業績は、脳内で「起き続けるためのスイッチ」として働く物質「オレキシン」を発見したことです。
私たちの脳内では、この「オレキシン」が活発に働いている時はしっかりと覚醒し、オレキシンの働きが抑えられることで眠気が訪れるという「覚醒と睡眠のスイッチ」が絶えず切り替わっています。
つまり、睡眠障害や途中で目が覚めてしまう背景には、この「起きる・眠るのスイッチの切り替えがスムーズにいかなくなっている」という脳と神経の仕組みが関係しているのです。
東洋医学で見る睡眠:「陰」と「陽」の入れ替わり
最新科学が解明した「覚醒スイッチ(オレキシン)」のメカニズムですが、実は東洋医学でも数千年前から全く同じ概念で睡眠を捉えていました。
東洋医学では、世の中のあらゆる事象を「陰(いん)」と「陽(よう)」のバランスで考えます。
「陽(よう)」の気:温める力、動く力、昼間の活動、覚醒
「陰(いん)」の気:冷やす力、静まる力、夜の休息、睡眠
健康な状態では、太陽が昇る昼間は「陽の気」が体の表面を巡って元気に活動し、日が沈む夜になると「陽の気」が体の深部にある「陰の気」の中にスッと収まります。
この「陽が陰に入る」瞬間こそが、東洋医学でいう「眠りにつくスイッチ」です。
逆に、夜になっても「陽の気」が沈みきれず体の表面で暴れてしまっている状態が、不眠や途中覚醒の正体なのです。
なぜ43歳前後の女性は「眠りのスイッチ」が壊れやすいのか?
では、なぜ40代に入るとこのスイッチの切り替えが上手くいかなくなるのでしょうか?
東洋医学では、女性の体は「7の倍数」の年齢で変化すると考えられており、35歳を過ぎた頃から体に「潤い」や「静けさ」をもたらす「陰(いん)」のエネルギーが徐々に減少していきます。
体を冷やすプール(陰)の水が少なくなると、相対的に体内の熱(陽)が抑えきれなくなります。
夜になっても頭や体に熱がこもり、交感神経が休まらない(オレキシンが切れにくい)
足元は冷えているのに、顔や頭だけ火照って寝苦しい
眠りが浅く、小さな音や体温変化で夜中に目が覚めてしまう
40代女性に多い「夜中の途中覚醒」や「熟睡感の欠如」は、体の「陰(潤い・冷却)」不足によって、眠りのスイッチが正常に切れなくなっているサインなのです。
睡眠を整えることは、全身の巡りを整えること
睡眠薬で無理やり脳を休ませるアプローチもありますが、東洋医学や鍼灸施術が得意とするのは、「自らの力で陽の気を陰へと沈められる体」を作り出すことです。
体が本来持っている「眠るスイッチ」をスムーズに入れるためには、内臓の働き(臓腑)を整え、気血の巡り(経絡)を良くすることが欠かせません。
次回からは、睡眠と特に深い関わりを持つ「お腹の中の臓腑」について、より詳しく解説していきます。
【次回予告】
第2回は「『心(しん)』と『神(しん)』— 脳と心を安らげて眠る仕組み」をお届けします。夜考えてしまって眠れない方、夢を多く見て疲れてしまう方はぜひご覧ください。
