記:鍼灸師 石原綾 | 八幡山 七宝庵
太極拳を始めて、早いもので4年が経ちました。
そもそも私が門を叩いた理由は、崇高な理念があったわけではなく、ただ単純に「運動不足を解消したい」という、極めて平凡な動機からでした。
ところが、続けているうちに奥深さにどっぷりとはまり、今では私の通う太極拳の先生の「懐の深さ」と「伝統の重み」に、日々驚かされるばかりです。
先日、そんな先生のご厚意で、当院のホームページ用の写真を撮影していただきました。
先生は太極拳だけでなく、カメラや照明機材にも並々ならぬこだわりをお持ちで、当日は本格的な機材がズラリ。末端の会員である私一人のために、ここまで準備してくださることに、まずは恐縮しっぱなしでした。
髪の毛一筋への「執念」に驚愕
「そこ、もう少しライトの角度変えるね」
「レンズ、こっちにしようか」
ミリ単位で機材を調整する先生。ここまでは、私も「さすがプロのこだわりだなぁ」と感心していたんです。
ところが、撮影が中盤に差し掛かった頃、先生から信じられない指示が飛びました。
「……うん、この、目にかかってる髪の毛一筋。これが重要だね」
えっ、そこ!?(笑)
自分でも気づかないような、わずか数ミリの毛束の垂れ具合。それが私の「集中力」や「表情の鋭さ」を決定づけるのだと、先生は真剣な眼差しで語ります。
正直、心の中では「先生、そこまでやるんですか!?」と叫んでしまいました。
私はといえば、先生が作り上げた「完璧な構図」を壊さないよう、息を止め、瞬きすらも計算に入れ(ているつもりで)、必死にポーズを維持。「運動不足解消」のために始めた太極拳ですが、4年間で一番の体幹トレーニングは、間違いなく今この瞬間でした。
「この写真に魂を追いつかせる」という覚悟
そうして撮り上がったのが、この一枚です。

写真を見た瞬間、言葉を失いました。
そこには、普段の鏡越しでは絶対に見ることのできない「私」が写っていました。
先生のこだわりが、私の内側にある「鍼灸師としての覚悟」を無理やり引きずり出してくれたような、そんな感覚です。
正直に言いましょう。
「先生、これ実物の3割増しくらい格好良くなってませんか?」と。
でも、この写真を見て「いい先生そうだな」と期待して来院される患者様がいらっしゃったとき、「あれ、写真と中身が違いますね?」と言われるわけにはいきません。
もはや、この写真に合わせて自分の技術も、精神も、そして顔つきもアップデートしていくしか道はないのだと痛感しました。
職人のこだわりを、指先に繋ぐ
先生が髪の毛一筋にまで魂を込めてくれたように、私も指先ひとつ、鍼の一本にまで、そのこだわりを繋いでいきたい。
「そこまでやるのか」と言われるほどの徹底した姿勢こそが、誰かの心や身体を動かすのだと、先生のカメラ越しに教えていただいた気がします。
先生、最高の(そしてハードルの高い)一枚をありがとうございました!
この写真に魂が追いつくまで、明日からまた、髪一筋の緊張感を持って七宝庵に立ちたいと思います。
あ、でも、練習終わりにご飯をご一緒するときは、いつものように「運動不足の会員」を、お茶目に笑わせてくださいね。

呉式太極拳創始者の 呉鑑泉 先生


