記:鍼灸師 石原綾 | 八幡山 七宝庵
「布団に入ると、昼間の出来事や明日の不安が頭を巡って眠れない」
「浅い眠りが続き、夜中にリアルな夢ばかり見て朝から疲れている」
連載の第2回となる今回は、東洋医学で睡眠をコントロールする最も重要な臓器「心(しん)」と、そこに宿る精神活動「神(しん)」にスポットを当てて解説します。
40代を迎えてから「メンタル面のゆらぎ」と「睡眠の質」が同時に低下してきたと感じている方は、ぜひ参考にしてみてください。
東洋医学における「心(しん)」は、ポンプであり「脳の司令塔」
東洋医学での「心臓」は血液を全身に送り出すポンプですが、東洋医学における「心(しん)」はそれ以上の重要な役割を担っています。
東洋医学では、心は「君主(体のリーダー)」と呼ばれ、全身の血(血流)をコントロールすると同時に、人間の意識、思考、感情といった精神活動全般を司っていると考えています。
そして、この「心」の中に宿っている精神活動や意識の安定性のことを、東洋医学では「神(しん)」と呼びます。
「血(けつ)」が足りないと「神」が居場所を失い、眠れなくなる
私たちがぐっすりと眠るためには、夜になるとこの「神」が「心」の中にすっぽりと収まり、休む必要があります。
この「神」を繋ぎとめ、安らげるためのベッドのような役割を果たしているのが「血(けつ)」です。
しかし、40代女性の体は、加齢や日々のストレス、目を駆使する生活(スマホやPC作業)によって「血」が消耗しやすい状態にあります。
「心」の中の「血」が不足(=心血不足)すると、以下のような不調が起こりやすくなります。
神が浮き立つ:夜になっても意識が冴えてしまい、不安や考え事が止まらなくなる
多夢(たむ):眠りが浅く、一晩中鮮明な夢を見て脳が休まらない
健忘・動悸:日中に物忘れが増えたり、ふとした瞬間に胸がザワザワ・ドキドキする
つまり、「考えすぎて眠れない」のは精神力の問題ではなく、「神を休ませるための血(栄養と潤い)が不足している」という体からのサインなのです。
自律神経と「心」の密接な関係
西洋医学の視点で見ると、「心」の働きは自律神経(交感神経・副交感神経)の働きと深くリンクしています。
仕事や家事・育児に追われ、精神的ストレスが重なると、交感神経が優位になりっぱなしになります。すると、心拍数が上がり、脳への血流が過剰になって頭熱足寒(頭がのぼせて足が冷える)状態に陥ります。
これがまさに、東洋医学でいう「心火(しんか)の上昇」です。
燃え上がった「心火」によって「神」が不穏になり、脳が休戦モードに入れなくなってしまうのです。
「心」を整えて「神」を鎮めるアプローチ
「心」の熱を冷まし、「血」を補って「神」を安らげる(鎮静させる)ためには、以下のようなアプローチが有効です。
1. 夕方以降の「目の使いすぎ」を避ける
東洋医学では「目を使いすぎると血を消費する(久視傷血)」と言われます。夜遅くまでスマホを見ていると、心の血が消耗し、神が浮ついて不眠を悪化させます。
2. ツボを使った鍼灸施術
手首のシワの上にある「神門(しんもん)」や、頭頂部にある「百会(ひゃくえ)」といったツボは、昂ぶった「心の火」を鎮め、自律神経をリラックスモードへと切り替える強烈な味方になります。
まとめ
「夜、頭が冴えて眠れない」「夢ばかり見る」という症状は、体の「心(しん)」と「血(けつ)」のバランスが崩れ、「神(しん)」が休まらなくなっているサインです。
無理に寝ようと焦る必要はありません。まずは体の中の巡りを整え、心の熱を鎮めてあげることが熟睡への一番の近道です。
次回は、ストレスやイライラと深く関係し、40代女性の睡眠を妨げるもう一つの大敵「肝(かん)」について詳しく解説していきます。
【次回予告】
第3回は「【臓腑論②】『肝(かん)』の昂ぶりを抑える—ストレス・自律神経と睡眠の関係」をお届けします。お楽しみに!
