記:鍼灸師 石原綾 | 八幡山 七宝庵
「夜布団に入っても、昼間のイライラやモヤモヤが頭から離れない」
「夜中にパッと目が覚めると、そこから緊張状態になって眠れなくなる」
連載の第3回となる今回は、東洋医学においてストレスや自律神経を司る「肝(かん)」にスポットを当てます。
40代を迎えて責任や忙しさが増し、「精神的な緊張が抜けなくて眠れない」と感じている方にぜひ読んでいただきたい内容です。
東洋医学における「肝(かん)」は、自律神経のコントロールセンター
西洋医学での「肝臓」は代謝や解毒を行う臓器ですが、東洋医学での「肝(かん)」は「気の巡り(エネルギーの流れ)」をスムーズに保つという非常に重要な役割を担っています。
これを東洋医学では「疏泄(そせつ)作用」と呼びます。
「肝」が正常に働いていると、体内のエネルギー(気)や血液(血)が滞りなく全身を巡り、自律神経のバランスや感情の安定が保たれます。
しかし、「肝」はストレスや環境の変化、緊張に対して非常に敏感な臓器です。プレッシャーやストレスが重なると、「肝」の働きが低下し、気の巡りがスムーズにいかなくなってしまいます。
「肝」の昂ぶりがもたらす2つの不眠タイプ
「肝」の機能が乱れると、気の滞りや過剰な熱(ストレスによる興奮)が発生し、睡眠に以下のような深刻な影響を与えます。
1. 「気鬱(きうつ)」タイプ:気が滞ってリラックスできない
ストレスを溜め込むと、気(エネルギー)が体内に滞ります(=肝気鬱結)。
胸がつかえる感じがしたり、ため息が増えたりするのが特徴で、夜になっても副交感神経に切り替わらず、体が「お休みモード」に入れません。
2. 「肝火(かんか)」タイプ:イライラで脳に火がのぼる
滞った気が摩擦を起こして「熱」に変わり、頭へと上りつめた状態です(=肝火上炎)。
イライラや怒りっぽさが止まらない
目が充血しやすい、頭痛がする
布団に入っても目がギラギラ冴えてしまい、まったく眠気を感じない
西洋医学でいう「交感神経が極度に過敏になり、脳内の覚醒スイッチ(オレキシンなど)が切れなくなっている状態」が、まさにこの「肝火」の症状です。
なぜ40代女性は「肝」が乱れやすいのか?
東洋医学には「肝は血を蔵す(かんはけつをぞうす)」という言葉があります。
「肝」は大量の血液を蓄え、必要な場所に分配する役割も持っています。
しかし、40代前後の女性は、ホルモンバランスの大きな変化(プレ更年期)や、仕事・子育て・介護などの多忙さによって、体の中の「血」を急速に消耗しがちです。
血液(血)は「肝」を鎮め、クールダウンさせる冷却水のような役割も持っているため、血が不足すると「肝」の熱を抑えることができなくなります。
その結果、「小さなことでもイライラしやすくなり、夜中の途中覚醒や激しい不眠に繋がる」という悪循環に陥ってしまうのです。
昂ぶった「肝」を鎮めてぐっすり眠るためのケア
「肝」の興奮を冷まし、スムーズな睡眠を取り戻すためには、日々の生活で「気を巡らせる」工夫が有効です。
1. 香りの高い野菜やハーブを取り入れる
シソ、セロリ、春菊、柑橘類、ミントティーなど、香りの良い食材には滞った「気」を巡らせて肝をスカッと解放する効果があります。
2. 「太衝(たいしょう)」のツボを押す
足の甲、足の親指と人差し指の骨が交わる凹みにある「太衝」というツボは、昂ぶった肝の熱を下げる代表的なツボです。イライラした時や、夜眠れない時にじんわり押し揉むのがおすすめです。
まとめ
「ストレスで目が冴えて眠れない」「イライラして夜中に目が覚める」というのは、精神力の問題ではなく、体内の「肝(かん)」が悲鳴を上げているサインです。
鍼灸施術では、この「肝」の滞りをほぐし、のぼせ上がった熱を下げることで、過剰になった緊張を自律神経の根本から解放していきます。
【次回予告】
第4回は「エネルギーと潤いの源であり、疲労性の不眠に深く関係する「脾(ひ)」と「腎(じん)」について解説します。お楽しみに!
