自律神経を揺さぶらない「お腹の温度管理法」冷たいものを食べた日の処方箋

記:鍼灸師 石原綾 | 八幡山 七宝庵

5月の世田谷は、日差しがすっかり初夏の眩しさを帯びて、新緑のなかを通り抜ける風が心地よい季節です。これからの時期、冷たいアイスクリームや冷えたドリンク、喉ごしの良い冷やし麺が美味しく感じられるようになりますよね。

「冷たいものは身体に悪いから」と頭では分かっていても、季節の移ろいとともに恋しくなるのは自然な欲求です。東洋医学の養生において大切なのは、食べたいものを無理に我慢して心にストレスを溜めることではありません。本当に必要なのは、冷たいものを美味しくいただいた後に、落ちてしまった「お腹の温度」をきちんと元の状態へ引き戻してあげる、優しいリカバリーの意識です。

東洋医学において、私たちの胃腸(脾胃:ひい)は、生命活動を維持するための「火」が静かに燃えている場所だと考えます。食事から栄養を吸収し、全身へエネルギーを巡らせるための大切な工場です。

この温かい工場に冷たいものが一気に流れ込むと、内側の火は一瞬で消えかけ、工場の機械たちは動きをピタッと止めてしまいます。これが、東洋医学でいう「脾胃の冷え」であり、夏バテや身体の重だるさ、そして自律神経の乱れを引き起こす大きな原因となります。冷やしてしまったら、すぐに後ろから温もりを追いかけさせることが、温度管理の基本です。

お腹の火を消さないために、冷たいものを楽しむ時は「すぐ後ろから温かいものを追いかけさせる」というルールを一つ作ってみてください。

 水分を摂る時:冷たいドリンクを楽しんだ後は、必ず熱い白湯か常温のお水を一杯。お腹の温度をゼロに戻すイメージです。

 食事のペアリング:アイスを食べたら、温かいほうじ茶や麦茶をセットに。冷たい麺類には、生姜やネギ、シソといった「お腹を温める薬味」をたっぷりと添えて、冷気から内側をガードしましょう。

薬味は、東洋医学ではお腹を温めてくれる小さなお薬のようなもの。冷気によるダメージをその場で和らげてくれます。

「食べてはいけない」と自分を厳しく縛るのではなく、「冷やした分だけ、後から丁寧に温め直してあげる」。そんな風に、自分の身体のいちばんの理解者であり、温度管理者になってあげてください。その小さな気配りが、季節の変わり目に揺らがない芯を作ります。

もし、自分ひとりのケアでは内側の火が灯りきらず、お腹の重だるさや深い冷えが抜けないときは、いつでも七宝庵の扉を叩いてください。静かな空間で、鍼灸(しんきゅう)という温かい手当てを用いて、あなたの身体の芯にある火をそっと灯し直すお手伝いをさせていただきます。