記:鍼灸師 石原綾 | 八幡山 七宝庵
「体はクタクタに疲れているのに、なぜか夜すんなり眠れない」
「夜中に途中で目が覚めてしまい、そこから明け方までうとうと浅い眠りが続く」
連載の第4回となる今回は、東洋医学においてエネルギー(気・血)を作り出し、蓄える根幹である「脾(ひ)」と「腎(じん)」の2つの臓腑にスポットを当てます。
「休んでも疲れが取れない」「若い頃と違って体力が落ちてきた」と感じている40代女性に、ぜひ知っていただきたい睡眠と体力の関係です。
胃腸の働き「脾(ひ)」:眠るための材料(気・血)を作る工場
東洋医学でいう「脾(ひ)」は、主に消化吸収とエネルギー(気・血)の生成を担っています。
私たちがぐっすり眠るためには、脳や体を安心させるための栄養素(東洋医学でいう「血(けつ)」)が必要です。しかし、日頃の暴飲暴食や冷たいものの摂りすぎ、また「思い悩み・考えすぎ」によって「脾」が弱ってしまうと、不眠の大きな原因になります。
「心脾両虚(しんぴりょうきょ)」による不眠
「脾」が弱ると、十分な「気・血」を作れなくなり、連載第2回で解説した「心(しん)」の栄養も不足します。
特徴:体がだるい、食欲がない、食後に強い眠気があるのに夜は眠れない、夢を多く見る、夢見が悪くて熟睡感がない
「眠るのにも体力(エネルギー)が必要」と言われますが、胃腸が弱ってエネルギー不足になると、「疲れているのに体を休息モードに移行させるパワーすらない」状態に陥ってしまうのです。
命のエネルギー「腎(じん)」:睡眠の深さと潤いを保つ根源
東洋医学でいう「腎(じん)」は、人間が生まれ持った生命力や成長・生殖・加齢に深く関わる最も根本的な臓腑です。
「腎」は体に必要な「潤いと冷却水(腎陰)」を蓄えており、これが日中の活動で過熱した体を夜間に冷まし、深い睡眠へと誘ってくれます。
40代からの「心腎不交(しんじんふこう)」
東洋医学では、女性の体は7の倍数で変化し、35歳を過ぎた頃から「腎」のエネルギーが少しずつ減少し始めると考えられています。
特徴:足元や手先は冷えるのに顔や頭が火照る(冷えのぼせ)、夜中に尿意で目が覚める、腰痛や膝の違和感がある、寝汗をかく
「腎」の冷却水(陰)が不足すると、上半身の熱を冷ますことができなくなり、脳がリラックスできずに浅い睡眠や夜間の途中覚醒が増えてしまいます。
西洋医学で見ると?「低血糖」と「副腎疲労」の影
この「脾」と「腎」の衰えによる不眠は、西洋医学的に見ても非常に理にかなっています。
1. 夜間低血糖(脾の弱り)
胃腸が弱くエネルギー保持力が低いと、睡眠中に血糖値が下がりすぎることがあります。すると体は危機感を覚えてアドレナリン(覚醒ホルモン)を分泌し、結果として夜中にパッと目が覚めてしまいます。
2. 副腎疲労とホルモンバランス(腎の弱り)
長年のストレスや加齢により、抗ストレスホルモンを出す「副腎」が疲れてくると、自律神経の切り替えがうまくいかなくなり、成長ホルモンの分泌や質の高い睡眠が阻害されます。
「脾」と「腎」を補い、熟睡を取り戻す日常ケア
疲労性の不眠から抜け出すためには、エネルギーをしっかりと補い、漏れ出させないケアが大切です。
「脾」を整える:温かく消化の良い食事
甘いものや生冷物(冷たい飲み物・生野菜)は胃腸を冷やして「脾」のパワーを奪います。スープや粥など、お腹を温める食事で「血」の材料を補いましょう。
「腎」を補う:黒い食材と下半身の保温
黒ごま、黒豆、ひじき、キクラゲなどの「黒い食材」は「腎」を補うとされています。また、首・手首・足首(特に三陰交というツボのある足首)を冷やさないことが重要です。
まとめ
「いくら疲れていても眠れない」「夜中に何度も目が覚める」というのは、無理をして頑張り続けた結果、体内工場(脾)とエネルギーの源(腎)がガス欠を起こしている合図です。
鍼灸施術では、お腹や背中、足元のツボに優しい刺激やお灸を与え、「脾」と「腎」の働きを底上げすることで、自力で深く眠れる体力を取り戻していきます。
【次回予告】
第5回は「【経絡論(けいらくろん)①】睡眠に関わる重要経絡(陰矯脈・陽矯脈・督脈)と睡眠と切っても切れない「気血の通り道」とツボの関わりについてお話しします。お楽しみに!
